牧野良幸のハイレゾ一本釣り! 第7回

第7回:佐野元春「COMPLICATION SHAKEDOWN」

~ハイレゾで新たな衝撃作になってもおかしくない~

 

 

 洋楽にくらべると、日本の音楽シーンで革新的なレコードはそんなに多くはないと思う。そんな中で確実に革新的だった1枚が、佐野元春の『VISITORS』である。

 『VISITORS』は1984年の発売。当時はアルバム『VISITORS』より、まず1曲目の収録曲「COMPLICATION SHAKEDOWN」が僕の目に飛び込んできたのだった。「目に飛び込んできた」と書いたのは、文字どおり僕の家の13インチのカラーテレビに「COMPLICATION SHAKEDOWN」のプロモ・ビデオが流れたのである。

 何の番組かは忘れた。しかしその時の衝撃は忘れようがない。歌詞といい、ビートといい、「なんだ、これは!?」というものだった。僕の人生において数回言うことになる「これが日本人の歌か?」という言葉を、その時も思い浮かべたのである。

 そして今、佐野元春のアルバムが多数ハイレゾ化されている。『VISITORS』もFLACの96.0kHz/24bitで配信中だ。さっそく31年前にテレビで受けた衝撃を思い出しながら、「COMPLICATION SHAKEDOWN」のハイレゾを聴いてみた。

 しかしハイレゾの「COMPLICATION SHAKEDOWN」は予想以上に凄い音だった。 厚く、パワフル、そして切れ味がいい。変なたとえだが、水揚げされた筋肉質の魚(音)が、あちこちでバンバン飛び跳ねている感じだ。

 いくら『VISITORS』が革新的だったと言っても、また「COMPLICATION SHAKEDOWN」のプロモ・ビデオにぶっ飛んだと言っても、当時こんな凄いサウンドで聴いたとは、ちょっと思えない。

 僕のオーディオ装置は31年前より、かなりグレードが上がっているが、それを差し引いても、こんなにパワフルな「COMPLICATION SHAKEDOWN」は想定外だ。ひょっとしてハイレゾで、どえらいものに生まれ変わってしまったんじゃないだろうか。ヒップ・ホップ、ニューヨークのアート・シーン、あの血沸き肉躍る時代を、新たに体現しているかのようだ。

 このことは「COMPLICATION SHAKEDOWN」だけではなく『VISITORS』全曲に言える。アルバムの中ではポップな「TONIGHT」も、ハイレゾでは音に圧倒されて、トンガリ曲のように思えてしまうし、「NEW AGE」も昔以上に精神がチクチクと刺激されてしまう。これはもう、31年前の“オールディーズ”じゃない。『VISITORS』はハイレゾで新たに衝撃作になってもおかしくない。

 


 

今回ご紹介した作品はこちら!

ヒップホップの要素を取り入れた革新的アルバム!
『VISITORS』
(「COMPLICATION SHAKEDOWN」はM1に収録)

 

佐野元春のその他のハイレゾ商品はこちら

 


 
牧野 良幸 プロフィール
 
1958年 愛知県岡崎市生まれ。
1980関西大学社会学部卒業。
大学卒業後、81年に上京。銅版画、石版画の制作と平行して、イラストレーション、レコード・ジャケット、絵本の仕事をおこなっている。
近年は音楽エッセイを雑誌に連載するようになり、今までの音楽遍歴を綴った『僕の音盤青春記1971-1976』『同1977-1981』『オーディオ小僧の食いのこし』などを出版している。
2015年5月には『僕のビートルズ音盤青春記 Part1 1962-1975』を上梓。